ノーベル賞作家、大江健三郎さんの訃報で思い出したことがある。 「大江健三郎は、ノーベル賞を受賞するはるか前、20代の初めの頃から、馬糞(ばふん)を描写してさえ、その才気が光っていた」と称されたことがあるのだ。 それは、23歳のときに書いた小説『芽むしり 仔撃(こう)ち』。 第二次大戦の末期、収容所から疎開の旅に出た訳ありの少年たちが、冬の朝、歩いていたときのこと。こういう一節がある。 <踏むとぎしぎし抵抗してから不意にあっけなく崩れる霜柱が残っていた。そして硬く凍っている馬糞、そのわずかな臭気のある寒さが矢のようにあたり一面の空気へ突きささっていた。 ひょっとして、凍った馬糞は凶器にもなりうるのかと、おぞましい想像にとらわれるくだりである。この小説には、兵隊の容姿を、<念入りに調教した馬のように美しかったと形容するくだりもある。大江さんは1935年、愛媛県の生まれだが、幼い頃、近くに馬がい
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