国家・国民と言うなかれ 政治家は命をすりつぶす生業(なりわい) 堀 真清/早稲田大学大学院政治学研究科教授 かつて政治は命がけの仕事であった。眼前の政治家は「国家・国民のために」、「国民の目線に立って」などと力めば安穏無事で、ひと財産つくれそうな気配である。この点、明治の有名な政治家田中正造は、鉱毒に苦しむ農民のために身代をかけた。彼の生涯は義人のそれである。大正の政治史に突出する政治家と言えば宰相原敬だが、彼は自党政友会を大ならしめるため権略を駆使し、ついに兇手に斃れた。彼が残したものは毀誉褒貶で、私財ではなかった。政治家の生きざまとは農民救済を志しても党勢拡張をめざしても命をすりつぶす生業で、家業どころではない。 必死というなら民衆の側もそうである。高い地租や米価によって流血の惨事を招くほど追いつめられてきた民衆は、昭和に入っても恐慌や農村の疲弊に直撃された。かくて政党政治家やその「金