人生の語りに耳を傾け、書き留める。そんな生活史の面白さに、社会学者の岸政彦さん(56)はずっと魅せられてきた。昨年11月に刊行された『大阪の生活史』(筑摩書房)を企画・編集。「すれ違う膨大な人たちはみなそれぞれ重厚な人生を持って生きているんだということが、生活史を読むと想像できる」と岸さんは言う。そこには教訓も意味もない。あるのは、要約できない人生の豊かさそのものだ。 聞き手を募集する「一般公募型の生活史プロジェクト」として2020年に始まった東京編、そして23年春に刊行された沖縄編に続く3作目。シリーズの完結編にあたる。語り手は聞き手がそれぞれ一人選び、大阪にゆかりのある150人の語りを集めた。1人約1万字のボリュームで、一冊の厚さは6センチに及ぶ。岸さんが長年暮らす街とあって「読んでいて特にリアルな感じがした」と話す。