内田百けん高橋義孝高橋義孝が多田基に出した書簡の一部(実践女子大図書館所蔵) 猫を愛した作家内田百けん(けんは門構えに月、1889〜1971)の愛猫ノラが行方不明になったとき、「今頃は三味線の胴で突っ張っていらあ」と酔っぱらって電話してしまいました――百けんと親しかったドイツ文学者でゲーテの翻訳などで知られる高橋義孝(1913〜95)が友人に告白した書簡が、見つかった。百けんの哀切な随筆「ノラや」にも登場するエピソードの裏話だ。 ノラが57年3月27日に行方不明になってから67歳の百けんは仕事が手につかず、泣いて暮らした。猫捜しの広告を新聞に折りこみ、猫の食器におきゅうをすえれば戻るというおまじないを日に一回、535回も続けたのに、戻らなかった。 「ノラや」によると、4月21日、「某氏から深夜の電話」があり、「もう帰って来ませんよ」「殺されて三味線の皮に張られていますよ」と言って切れ