記事一覧 昔、若狭湾はサバの海だった。大群が… (2016年3月4日午前7時20分) 昔、若狭湾はサバの海だった。大群が押し寄せ、高浜町の海岸にまで打ち上がった。海面は真っ白になるほど波立った。漁師はそれを「シラガキ」と呼んで喜んだ▼「若狭の漁師、四季の魚ぐらし」(草思社)の一節だ。そんな情景も、著者の故貝井春治郎さんが漁師になる前、戦後の数年間で消え去った▼中学を出て大敷き網の仕事を3年ほどやりサバ漁船に乗り組んだ頃には漁獲は落ちた。船はサバの群れを追って日本海を転々とし、北海道まで出掛けていった▼十代だった貝井さんは絵を描くのが大好きだった。漁の合間に炊事、洗濯、買い物と雑用に追われながら、各港で画架を引っ張り出した。「漁師画家」と呼ばれたゆえんである▼「僕の絵は体で描くんや。漁師の太い腕をぶっつけるようにして描く」。画面の中の漁師たちは口元を引き結び、全身に力をみなぎらせている。魚も