物語では。 物語では、大抵夢を見るものである。 あのようなことがあったのだから、そのような夢を見るべきである。 深夜(三時くらいがよい)に寝汗で肌着をぐっしょりと濡らして、臨場感たっぷりな悲鳴などを上げつつ 飛び起きるのが定石であろう。 そして閨を共にしていた美女の問いかけに対して、なんでもないよと作り笑いでも浮かべればより完璧だ。 しかし、生憎と自分が見る夢は、日常のどうというこもないものばかりだった。 朝の七時三十分。布団から上体を起こし、寝ぼけ眼で周囲を眺める。月に一回掃除をすれば上等な汚い自室。 当たり前だが隣に美女はいない。そのような機会が今後一度でも訪れるのだろうかと、深刻で現実的な疑問が 脳裏をかすめる。 ふわぁとだらしのない欠伸をこぼし、横島忠夫いつものように目覚め、いつものように着替え、いつもの ように事務所へと向かった。 午後、日暮れ前。一仕事を終えた彼らは事務所内で一