「自分が価値のある人間かどうかだなんて、 80過ぎたこの年になったって、分かりゃしねいよお。 だから、いいんだ。お前さんもそのまんまで。」 おばあちゃんはそう言うと、 さりげなくチョキにした指を、 「火の国熊本!!!」 と突然叫びながら、僕の両目に突っ込んだ。 その衝撃で、 僕の肛門に入れてあったゴルフボールが 夕陽の射す縁側に転がった。 気がつくと、僕の顔の上で、 家族が顔をのぞかせていた。 「あ、気がついた」 「よし、母さん。あのレンコンにからしを詰めてくれ」 「はいはい。ジャスミンのつぼみは、夕方に開きはじめますからね」 僕はうつろな意識の中で、 (そうか。思い出をたくさん作るのが、人の一生なのか) と、少しだけ何かが分かった気がした。