37 日本の中世及び近世における夢と幽霊の視覚表象 加治屋健司 はじめに 中世から近世にかけて、夢と幽霊は文芸の主要な題材の一つで あった。しかし、両者の間に共通点があることはあまり注目されて いない。第一に、夢と幽霊はともに実体を欠いた存在である。夢 は目が覚めると消えてしまうものであり、幽霊として現れ出てくる のはこの世にいるはずのない者である。第二に、夢も幽霊もとも に視覚的な存在である。英語やドイツ語では持つ 0 0 (have, haven)、 フランス語では作る 0 0 (faire)対象である夢は、日本語では見る 0 0 も のである。幽霊もまた、単なる霊魂ではなく身体を伴って目に見え るものとしてこの世に現れ出る。そして第三に、夢と幽霊は、パフ ォーマティヴに機能して、現世の生活に影響を及ぼす存在である。 衝撃的な夢内容は心を占有して実生活の行動を変えてしまうし、 幽霊