江戸時代の町人の暮らしを想像するとき、まず思い浮かべるのは、その住居、長屋ではないだろうか。時代劇の中でも、主人公の友人たる町人たちは長屋に暮らしている。そこで事件が起きれば、いろいろな人がやってきては好き勝手な意見を言い合うといった光景はおなじみだろう。 落語には大店の旦那衆も登場はするが、八っつぁんや喜ぃ公など、多くの人物は長屋住まいだ。 しかし、長屋以外の住まいはなかったのだろうか?答えは「長屋以外はほぼない」だ。立派な城郭を建造する技術があったのに、なぜ庶民の住まいはみすぼらしい長屋なのだろう。実は、江戸幕府の政策や人口密集が際立つ江戸の町事情に理由がある。 江戸時代の土地は、基本的にはすべて幕府の所有物だった。つまり、個人が土地を持たなかったのだ。幕府は大名に土地を貸し、大名は地主などに貸し、地主はそこに長屋を建てて庶民に貸すという構図だった。つまり、一般庶民にとって土地は借りる