丸山真男と加藤周一の対話「翻訳と日本の近代」(岩波新書)を読んだ。これは、日本の近代化を支えた翻訳というものについての対話形式による省察だ。何を、どのような人がどのように訳したか、また日本では何故翻訳が巨大な役割を果たし、その影響も広くかつ深かったのか、ということについて、主に加藤が問題を投げかけ、丸山が応えるという形で進んでいく。その過程で、興味あるワキ話も出てきて、むしろ本題よりも面白かったりする。知的刺激に富んだ面白い対話だ。 ワキ話のなかで最も精彩を放っているのは、荻生徂徠と福沢諭吉の評価をめぐるものだ。この二人は、丸山が情熱をかけて研究した思想家だから、よほど思い入れがあるのだろう、話が流れていくうえで、様々な形で言及される。というのも、この二人の思想は、日本の伝統的な思想とはかなり異なっていて、非常にプラグマティックなところがある。そういうところが、翻訳の精神と触れ合うところが