神戸大学大学院経済学研究科教授 加藤 弘之 なぜ制度に注目するか 近年、経済発展における制度の重要性が、経済学者の間中でしだいに共有されつつある。そのきっかけとなったのは、20世紀末に起きた共産主義の崩壊であった。サンタ・フェ研究所のサミュエル・ボウルズは、次のように回顧する。 「ソビエト連邦と東ヨーロッパにおける共産主義の崩壊のあと、多くの経済学者は、国家所有が廃止された以上、資本主義的な諸制度が十分に機能する形で自然発生的に出現するだろうと自信をもって予言した。しかし、ロシアにおいて(中略)生まれた制度は、生産性を向上させるインセンティブも投資に向けさせるインセンティブもないものだった。(中略)[このことは]『良い制度は無償である』という通常の見方がいかに間違いであるかを如実に示している」(ボウルズ2013:14頁)。 マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグルとハーバード大学のジェ