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ブックマーク / dorobouneko.web.fc2.com (6)

  • ミスタープレイボーイ

    大事な用があるという彼女の連絡を受けて、喫茶店のいすに座ってから十分がたった。 彼女は、うつむいている。 辛抱強くまっていると、彼女がその年のわりに幼く見える顔を上げた。 やがて口を開く。 いやな予感がする。 すごく。 なんだか聞きたくないことを聞きそうな気がする。 夜な夜な動き出しては校庭を測量する、間宮林蔵の銅像の話を聞いたときと似ている。 そのせいで、高校時代は夜の校庭に近づくことさえできなかった。 「妊娠したかもしれません・・・、わたし」 間宮林蔵なんて目じゃない。 頭がよくて、スポーツができて、何より顔がいい。 これでもてなきゃ嘘だろう。 つまり、そういうわけで、ボクはもてる。 唯一の欠点は、名前くらい。 すなわち、「長嶋茂雄」。 今は亡き(生きてるんなら殺してやりたいが)糞親父につけられてしまったらしい。 数十年前ならいざしらず、今となっては恥ずかしい名前になってしまった。 も

  • Bloody Mary

  • 妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる

    広いおでことは対照的に、私の世界は狭い。 ファッション誌より赤川次郎とビートたけしの毒舌が好きだったり、 ミルクティよりブラックコーヒーが好きだったり、 黒や黄色いねずみより青いねずみが好きだったりする自他共に認める変わり者のわたしでも、 さすがに実兄に気で恋してしまうとは思わなかった。 高校時代を女子高の文芸部で過ごし、何を間違ったかそのまま 文学部に進学してしまった私に言い寄る物好きなどいない。 何度か合コンに誘われ、興味位でついて行ったこと一回限り。 わたしの決して豊かではない胸元をじろじろと弛緩し、 どさくさにまぎれて肩を組んできた男の面体を張り倒して以来、異性にはとんと縁がない。 元々、他人に対して興味の薄いわたしにとって、兄さんと共に過ごす時間は何よりも大切だったし、 これからもきっとそうだろう。 兄さんはやさしい。 年頃にもかかわらず男っ気もなく、ついでに身を飾ることに

  • 優柔

    束縛されるのは、もううんざりです。 「今どこにいるの?」とか「私だけを見てて」とか 「なんであの子と楽しそうに喋るのよ」とか、 そんな台詞は二度と聞きたくありません。えっ、何の話かって?前の彼女の話ですよ。 可愛かったし尽くしてくれたりして、幸せでした。 手作りのお弁当の味は今でも思い出せるくらい美味しかったです。 冬になったらマフラーを編んでくれたし、風邪をひいた時もわざわざ看病しにきてくれましたし。 初めて付き合った子がこんなに良い子で当に幸せでした。 できれば別れたくなかったですよ・・・でもね、いくら可愛くても 自分の母親と喋るだけで嫉妬するような子は駄目なんですよ。 いくら尽くしてくれても、悪い虫が付かないようにって携帯のメモリを 全部消去しちゃうような子は無理なんですよ。 黒くて長い髪に縛られる苦しみってやつですか、それに耐えられなくなった僕は別れを告げました。 二人っきりだと

  • 沃野

    「でさぁ、洋平、やっぱり三組の綾瀬さんと付き合ってるんだろ?」 「……違うって言ってるじゃないか」 何度となく繰り返されてきた質問に、いつもと同じ返事をする。 が、信じてもらえた様子はない。 「けどさっきだって弁当一緒にってただろ」 「それも手作りの。しかもベタベタくっつきながら『よーくん、はい、あ〜ん』って」 「おいおい、今時バカップルでもしねぇよ、あんなの」 「……あいつは単なる世話焼きなんだよ。昔からそうだったし」 自分でも理由になってないと分かるが、そう言って躱す。 高校生にもなって、左手を添えながら「はい、あ〜ん」をしてくる数年来の幼馴染み…… それを「世話焼き」というだけで片付けるのは、いかにも無理があった。 「ったく、お前がそうのらくら逃げるから他の男子が無駄に希望持っちまって玉砕するんだよ」 「何人も告白しては『ごめんなさい』って断られてるんだぞ」 「ありゃどう考えたって

  • うじひめっ!

    真夏にコンポストを開けて覗いたことがあるだろうか。 ほら、庭なんかにあって、生ゴミを放り込んで堆肥にするっていうあの箱だ。 真夏。 生ゴミ。 この二単語から連想されるものを想像してほしい。 じっくり。とっくり。脳の襞までねぶるように。 ……想像していただけたかな? なら、我が悪友のバカこと梨良治がうっかりコンポストを蹴り倒してしまったとき 何が起こったか、詳しく説明するまでもないことだろうと判断する―― 「うひぃやああああ」 悲鳴が挙がった。その主が良治のバカだったか俺だったか、記憶が混乱していてよく覚えていない。 エアコンレスの気が狂うような暑さの中で『餓狼伝』と『獅子の門』を立て続けに読みまくった 良治のクソ野郎は瞬間的に錯乱を生じ、あたかも己がいっぱしの格闘家であると思い込んだ末、 顔を板垣画風に歪めつつ「おきゃあ!」と謎奇声を発してへなちょこ右ミドルキック (恐らくハイを放とうと

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