快と不快という現象はあるわけだが、われわれはそれ以上に幸福や不幸を求めている。幸福でなければならない、不幸であってはならないという存在証明の問題として考える。地べたを這う虫けらが幸福を渇望し、天に手を伸ばそうとするのは、死後の世界のためなのである。自殺や他殺や餓死など、不幸な死に方をすると悪霊になるという迷信がある。自殺があったアパートの部屋は借りたがらない。本気で悪霊がいると信じ込んでいるわけでもないが、そういう迷信を捨てきれないので、われわれは自殺者が出た部屋を忌避する。この悪霊という迷信こそが、人間が幸福・不幸に固執する原因なのだ。不幸な現世が原因で、死後に悪霊になるのが嫌なのである。鉄道に飛び込んで轢死体になると、その汽車や駅舎に悪霊として棲み着いて心霊写真に写り続けるらしいが、もはやわれわれは原始人ではないので、そのような迷信は克服しなければならない。脳が痛みや快楽を感じる程度で