「今日は何食べたの?」 わたしが尋ねると、Nくんは「中華丼」と答えた。 「どうだった?」 「やっぱり不味かった」 「そうか、やっぱり不味かったか。なあ、もう十分だろ。そろそろやめたらどうだい?」 「いや、もう半分は越えたんだ。ここまできたら、最後までやりきるよ。おれは案外オムライス辺りに希望があると思う」 学生時代の思い出だから、今から二十年近くも前のことだ。友人のNくんが無謀とも言える挑戦をしていた。 わたしたちの通う大学のすぐ近くに「K」という食堂があった。メニューが豊富で、ラーメン、焼肉定食、ピラフと和洋中問わず何でも出す大衆的なお店だ。年季の入った店内には、L字型のカウンターと、テーブル席が二つ。 「いらっしゃい」も言わない無愛想なオジサンとオバサンの二人だけで切り盛りしていた。 この食堂Kには一点、重大な問題があった。―不味い、のである。 わたしとNくんが、はじめてKを訪れたのは
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