現代美術に関する実に刺激的な研究書が刊行された。日本人の研究者によるこれほどの水準の研究を私はほとんど知らない。本書が発表された経緯を知るならばその理由も明らかであろう。あとがきによれば、本書は「Dislocations: Robert Rauschenberg and the Americanization of Modern Art, circa 1964」というタイトルで2007年にイェール大学に提出された博士論文が原型であり、その後、序章を完全に書きかえて「The Great Migrator: Robert Rauschenberg and the Global Rise of American Art」というタイトルとともに2010年にThe MIT Pressから出版された研究の日本語版である。著者も述べるとおり、二つのタイトルの相違に著者の問題意識の微妙な変化がうかがえる。
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