やはり面白い。レビューを書くため久しぶりに読み返し、つい時間を忘れてしまった。面白いはずである。舞台はインド・中国国境の土地、ランキーマに建つ原子力発電所だ。神話の火の神の名前をとって「アグニ」と呼ばれているその発電所に、スパイでも特殊部隊員でもない日本のサラリーマン・工藤が、爆弾を取りのぞくために潜入する、というのが主たるストーリーである。 なぜ一介のサラリーマンがそんな重要ミッションを背負わされることになったのか。それについては作品本文を読んでいただくとして、CIAと中国諜報機関が火花を散らす国際謀略の世界。そこに平凡なサラリーマンが巻きこまれてゆく取り合わせに、なんともいえぬアンバランスな面白さがある。 工藤とともにこのミッションに挑むのは、落語界の大御所を父にもち、いまなお噺家に憧れている桂正太。英語コンプレックスに悩まされている万年係長の仙田徹三。仕事はできないが名うての女たらし