『パリ、テキサス』(PARIS,TEXAS/1984) 深く愛を失った男がいる。仕事や金、家族や友人すべてを捨て去って、男は独り旅に出る。情報も時間も関係のない場所へ。傷だらけの心に刻まれた想い出だけを背負って。その果てには何があるのか? ──こんな放浪体験をしたことがある人がいれば、映画『パリ、テキサス』(PARIS,TEXAS/1984)はきっと特別な意味を持つことになるに違いない。でも多くの人は、現実や生活のしがらみで実行を断念することだろう。 放浪には勇気と覚悟が必要、と言うのは多くの人の感覚で、実際に移動する人にとっては必然な出来事に過ぎない。しかしどちらにせよ、孤独な魂は深く愛を失った男に影のようにつきまとう。まるでタフに生きていくための試練みたいに。 監督は『都会のアリス』『まわり道』『さすらい』といった本物のロードムービーを作り続けてきた映像作家ヴィム・ヴェンダース。イメー