私の自宅から最寄りの駅まで最短で向かう道程の途中に、必ず通り抜けなければならない小さな森があった。 かつては土地を治める大名の別荘地だったと言われているその森には、その中心を横切るようにして木々に囲まれたトンネルのような趣の遊歩道があり、 昼間には散歩やジョギングを楽しむ人々の往来が頻繁に見られたが、その遊歩道沿いには外灯の類が一切設置されていなかった為、夕暮れを過ぎた後の時間にはパタリと人の往来はなくなるような場所だった。 街の人たちが夜間に森の遊歩道を避ける理由は、もちろん真っ暗で足元がまったく見えないということもあったのだが、もうひとつの大きな理由として、遊歩道の途中にある森の中の井戸跡に、夜になると「何かが出る」という都市伝説めいた噂がまことしやかに囁かれていたからだった。 その噂の不気味なところは、その何かという部分が不透明なヴェールに覆われていることにあった。明確に幽霊が出ると