普段、あいつという人の呼び方は嫌いなので、誰かを呼ぶ時にあいつという人称形式は絶対に使わない。 でも、例外があって、あいつに関してだけは別だ。 言葉を探そうとしても、あいつにはあいつ以外の他の適当な呼び方が見つからないのだ。 あいつとの付き合いは決して仲の良い関係性の上に築かれたものではないのだから。 親しみなんてとてもじゃないがそこには込められない。 そう、あいつはいつだって僕の前を走っている。 僕が息をぜーはーさせて、苦しい表情で足を前に運ぶ力が尽きかけると、あいつは「どうした、もう終わりか?」と言いたげなそぶりをみせて僕を振り返る。 呼吸は落ち着いて、汗ひとつかかずに髪も乱れてもいない。 この間なんかはもっと早くこいよと笑みを浮かべて手招きもしやがった。 それが余計に、僕をいらだたせる。 ちくしょうとなって、またあいつについていこうとむきになって、スピードをあげる。 でも、必死で追い