炎の黄水仙 ドロシー・ワーズワースの生涯 ① 1800年1月。英国の、凍りつく湖水地方。グラスミア湖を見おろす、タウン・エンドの、小さな、天井の低い石造りの2階家。 ☆ 暖炉の前で、クリスマスに28才になったばかりのドロシー・ワーズワースは、とても幸せな気分でいた。 寒い、と言っても、生まれ故郷の近くで、幼いころ慣れ親しんだ空気感である。 ☆ 暮れの20日に引っ越してきたばかりで、この世でいちばん愛する兄・ウィリアムと一緒に、落ち着けるのだから、ドロシーの炎のような瞳は、暖炉の火と呼応して、さらに熱く、きらきら輝いていたにちがいない。 ☆ 幼いうちに両親を失って、あちこちにやられ、それなりにかわいがられて育ったとはいえ、真に自分が主導権を持って、落ちついて、好きなようにデザインできる、家庭と思える家を持ったのは、はじめてなのだった。 ☆ 若者らしい、ボヘミアンな暮らしをした南西部・ドーセッ