エドワード・ヤン(楊徳昌)が逝って10年。1980年代に登場したアジアの新世代監督の中で随一の理知派は、21世紀のボーダーレス社会の葛藤を先取りしていた。その映画は今、輝きを増す。「頭が切れた。物事に対してはっきりした見方をもっていて、細部まで計算できた。まるでコンピューターだと思っていた」台湾ニューシネマの旗手として並び称されたホウ・シャオシェン(侯孝賢)はヤンをそう回想する。「厳しい人
ヌーヴェルヴァーグを思い起こさせる実験性が世界的に評価された、80~90年代に隆盛した「台湾ニューシネマ」。その旗手といわれた天才監督、楊徳昌(エドワード・ヤン)が59歳で亡くなったのが、2007年のことだった。本作『クーリンチェ少年殺人事件』は、ヤン監督の遺された作品群のなかでも代表作だと評価される。しかしながら、日本では権利の関係で、初公開以来25年の間DVD化されず、望まれながらも観ることが困難だった映画である。そのことも本作の価値を高め、日本のコアな映画ファンの間で「幻の作品」となっていた。 本作を愛するマーティン・スコセッシ監督が設立したフィルム・ファウンデーションと、クライテリオン社が、このたび共同で行ったフィルム修復事業により、「4Kレストア・デジタルリマスター版」として本作『クーリンチェ少年殺人事件』 は甦り、日本でもめでたく再上映されることとなった。さらに、公開版より長い
2016年11月に公開されて以来、大ヒット上映中の映画『この世界の片隅に』。3月3日(金)には、第40回日本アカデミー賞「最優秀賞アニメーション作品賞」の受賞が決まりますます注目が集まる本作。ダ・ヴィンチニュースは、『この世界の片隅に』監督の片渕須直さんと『機動戦士ガンダム』などを手掛けてきた日本を代表するアニメ監督・富野由悠季さんの対談に密着。おニ人の対談の模様が配信される文化放送のインターネットオンデマンド配信サービス「AG-ON Premium」の収録現場に伺った。 富野監督『この世界の片隅に』から戦争と歴史を語る ――今回、映画『この世界の片隅に』をご覧になった富野由悠季監督と、片渕須直監督とのはじめての対談になります。本日はよろしくお願いいたします。 富野由悠季監督(以下、富野): よろしくお願いいたします。『この世界の片隅に』を観て、開始10分くらいで衝撃を受けたことがあります
「シン・ゴジラ」90点(100点満点中) 監督:樋口真嗣 出演:長谷川博己 竹野内豊 ハリウッド版をすら凌駕する、これぞ2016年の日本にふさわしい新ゴジラ 私は「シン・ゴジラ」が完成した直後、その事をある制作スタッフから聞いた。やがて試写予定についても別会社のスタッフから知らされていた。だが結局、公開までに通常の大々的なマスコミ向け試写会は行われなかった。 あの庵野秀明総監督の事だから、完成といいつつポスプロの沼に嵌ったか、あるいは初号試写を見た宣伝チームが急きょ事前に我々に見せることをやめる判断をしたのか。いずれにしても映画ライターの間ではこういう場合、ろくな結果にならないとの経験則がある。 しかも、たまたま見に行った都心の映画館の入りがきわめて悪かった(上映10分前の段階でなんと私一人)事もあり、不安は増大する一方だったが、なかなかどうして、「シン・ゴジラ」は期待をはるかに上回る大傑
「アメリカン・スナイパー」100点(100点満点中) 監督:クリント・イーストウッド 出演:ブラッドリー・クーパー シエナ・ミラー 神からの警告 アメリカでこの映画のことを好戦的とか、ヒロイズムを強調しすぎだとか、アメリカ万歳イズムだなどといって批判する人たちがいると聞いて、私は仰天した。いったいどこをどう解釈すれば、そんな真逆の受け取り方をするのだろう。 頑健な肉体と精神、たぐいまれな能力に恵まれたクリス(ブラッドリー・クーパー)は、強者に生まれた責任感と愛郷心から海軍に志願する。やがて特殊部隊ネイビー・シールズ最強の狙撃手となった彼は、イラク戦争の最前線で目覚ましい活躍を見せる。だが、同時にテロリストにとって高額の賞金首となるのだった。 オバマ大統領夫人まで巻き込んだ大議論となっている「アメリカン・スナイパー」をめぐる騒動だが、それも納得のすさまじい完成度である。私に言わせればこの映画
『ダークナイト』や『ウォッチメン』、『300』、『パシフィック・リム』、『マン・オブ・スティール』など、コミック原作やオタク向けの題材を、大人や広い観客層にも楽しめるような、リアリスティックな路線で実写映画化することでヒットを連発してきたレジェンダリー・ピクチャーズが、東宝から『ゴジラ』使用の権利を譲り受け、(東宝担当者は「出演者」を貸し出したと表現)ハリウッドでの再映画化に挑んだ。 それ以前にも、ローランド・エメリッヒ監督による映画化作品『GODZILLA』があったものの、そのシリーズ続編が制作されることがなく、そこから今回の映画化までに長くブランクがあったのは、このエメリッヒ版が、興行的には成功したものの、内容について非常に評判が悪く、続編構想が頓挫し、その後怪獣映画そのものが企画として通りづらくなってしまったという経緯があるからだ。 宇宙人襲来を描いたSF映画『インデペンデンス・デイ
2014年7月に発売されたユリイカ8月臨時増刊号、総特集 シャーロック・ホームズ コナン・ドイルから『SHERLOCK』へを、徹底レビュー。一応、すべてのコンテンツについて感想を述べています。ものすごく長いです。 本の基本データ 出版社: 青土社 (2014/7/15) 言語: 日本語 ISBN-13: 978-4791702749 発売日: 2014/7/15 ページ数:264頁 価格:1620円 こんな人にオススメ これから「シャーロック・ホームズ」を知りたいと思っている人 「シャーロック・ホームズ」に関する様々な批評をまとめて読みたい人 オススメできない人 『SHERLOCK』に“だけ”興味がある人 活字を読むのが嫌いな人 「シャーロック・ホームズ」は好きだけど『SHERLOCK』は好きじゃない人 (『SHERLOCK』に関する批評がかなりの割合を占めています) はじめに 『SHER
『うみべの女の子』所感 『ソラニン』について 浅野いにおの叙情 成熟と喪失 忘れるということ 忘れることと複雑化 ありふれたストーリーを複雑にする 『おやすみプンプン』の中心 ヒーロー不在の世界観 破滅の最終章 愛子ちゃんの悲劇性 世界の終焉は何だったのか 最終回について 『おやすみプンプン』の主題 浅野いにおはファッション憂鬱なのか 村上春樹と新海誠の憂鬱性 浅野作品のリアリティ 泣き顔のリアリズム 憂鬱のリアリズム 浅野いにおの作画について おやすみプンプン 13 (ヤングサンデーコミックス) 作者: 浅野いにお出版社/メーカー: 小学館発売日: 2013/12/27メディア: コミックこの商品を含むブログ (14件) を見る昨年を振り返ると、浅野いにお作品について考えている時間が多かった。遂に『おやすみプンプン』が完結したことを受け、彼の作品について書いてみようと思う。 『うみべの女
本編も良いということが言いたい 前の記事では『のんのんびより』のアバンについての感想だけで終わってしまって本編について触れることができなかったので 今度は本編についても感想を書きたい。どうせ暇だし、友達もいないし雨降ってるしですることがブログを書くぐらいしかないんです。 いや、暇だからじゃなくて本編も物語中毒者的にすごく美味しかったから書くんだけどね? まず1話のあらすじを紹介すると・・・ 1話のあらすじ 第01話 転校生が来た 一条蛍は、両親の仕事の都合で、東京から「旭丘分校」に転校することに。しかしそこは、自分を含め、全校生徒が5人しかいない学校だった!東京から転校してきた一条蛍、ムードメーカーの越谷夏海、女子最高学年の越谷小鞠、独特の感性を持つ最年少の宮内れんげ、まったりした田舎の大自然の中で過ごす彼女達の日常がはじまる! 脚本:吉田玲子 コンテ:川面真也 演出:川面真也 作画監督:
かつて庵野秀明は『紅の豚』について「全裸の振りして、お前、パンツ履いてるじゃないか!」「おまけに、立派なパンツ履きやがって!」と評した。その庵野秀明が主演声優として参加した『風立ちぬ』を観たのだが、宮崎駿の最高傑作ではないかと感じた。宮崎駿がパンツを脱いでいるところが良い。パヤオの立派なパンツに隠されていたチンコは、意外にもデカかったのだ。 『風立ちぬ』はとにかくエロい映画だ。「右手がメカで左手は美少女、そして口からは説教」*1が宮崎アニメの特徴であるが、本作のメカニックと美少女はとにかくエロい。単にキスシーンが多くて初夜のときめきが描かれているからとか、飛行シーンが美しいからという理由からだけではない。ヒューマンビートボックスすれすれのとんでもない手法で作られたSEが単なるメカニックである飛行機や自然現象である地震を生き物のように描いているという理由もあるが、どちらのエロさも死と結びつい
宮崎駿の『風立ちぬ』を見ました。かなり驚いたので、感想を書きたいと思います。いわゆる”ネタバレ”がありますので、まだ見てない方は読まれない方が良いと思います。映画を見たこと前提に書きますので、まだの方には意味がわかりにくいかもしれません。 「えっ、本当に?」というのが、『風立ちぬ』を見た僕の最初の感想でした。なんとなく美しい話として見てしまう物語の基底が、圧倒的に残酷で、これまでの宮崎映画とは次元がまったく異なっています。 そして、たぶんこの残酷さが宮崎駿の本音なのだと思います。今回、宮崎駿は今までよりも正直に映画を作りました。それは長い付き合いで、今回主人公の声を担当した庵野秀明も言っていることなので間違いありません。何より、庵野秀明が主人公役に抜擢されたこと自体が「正直に作った」という意思表示です。庵野さんに対する宮崎監督の評価は始終一環して「正直」というものだからです。今回も「庵野は
『涼宮ハルヒの憂鬱』をはじめ、『けいおん!』『氷菓』『中二病でも恋がしたい!』など安定したクオリティのアニメをコンスタントに発表し続け、今日のアニメシーンにおいて欠かせない存在となったアニメ制作スタジオ・京都アニメーション。その最新作である『たまこまーけっと』も、多分にもれず高水準な作画と脚本・演出で我々視聴者を毎回楽しませてくれている。 本作のメインスタッフは、監督・山田尚子、キャラクターデザイン・堀口悠紀子、脚本・吉田玲子という『けいおん!』を手掛けた女性スタッフたち。彼女たちの手によって、うさぎ山商店街の愉快な面々が繰り広げる日常風景が描かれる。言葉を話す謎の鳥デラ=モチマッヅィというファンタジックなキャラクターも存在するものの、基本的には普通の人々が織りなす普通の物語を描く『けいおん!』直系の日常アニメとなっている。 そんな『たまこまーけっと』では、「活気あふれる商店街」「優しすぎ
GUNSLINGER GIRL(1) (電撃コミックス) 作者:相田 裕出版社/メーカー: KADOKAWA発売日: 2014/05/01メディア: Kindle版 評価:★★★★★星5つのマスターピース (僕的主観:★★★★★5つ) 相田裕さんのガンスリンガーガールが完結した。ラストの終わらせ方は見事だった。全体の構成的に「これしかない」という落とし方をしていて、ああ作者はとても論理的な人なんだな、と薄々感じてはいたが、ここまで論理的整合性を持つ構造で構築するのか、と感心した。なぜならば、どう見ても最初のアイディア、そして絵柄からいって、そういう論理よりも情念というかイメージ先行型の印象がとても色濃い作品だったので、ここまで論理的に整合性をとって物語を広げて落としてくるとは思わなかったからだ。だって、少女の暗殺者とそれを使役するマスターみたいな構造って、非常に妄想濃度の濃いイメージじゃな
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