ずいぶんと性格の異なる二著を並べたが、これは、私が『政治家の文章』を読むきっかけとなったのが『テロルと改革』にあったという事情による。そこで、先ず後者から取り上げよう。 和田春樹の『テロルと改革』は、ロシア皇帝アレクサンドル二世暗殺(一八八一年)前後の時期を対象とし、帝政政府内でロリス=メリコフ内務大臣によって準備されつつあった国政改革案が最終的に挫折に至る過程を描いた作品である。ロシアについて専門家でない人たちの間で通俗的に広まっているイメージでは、帝政ロシアというのはどうしようもなく停滞した古くさい帝国で、それ故に一挙に革命によって瓦解せざるをえなかったのだという風に捉えられがちだが、実際には、ロシア帝国にも種々の改革の試みがあった。そのなかでも最も大胆な試みの一つがロリス=メリコフによるものであり、これを著者は「専制の制限、立憲制に道を開くための方策、政治改革のための突破口となる措置