2016年2月19日、ウンベルト・エーコが亡くなった。享年84である。 記号学者にして小説家であったエーコは、生涯を通じて記述、表現という行為について並々ならぬ関心を持ち続けた。その名が日本で広く知れ渡るようになったきっかけは、言うまでもなく1980年に発表した小説『薔薇の名前』(東京創元社)が翻訳されたことである。中世北イタリアの僧院を舞台にしたこの物語は、中心に迷宮のような巨大構造を持つ文書館が存在し、神学や倫理学についての多層的な議論を含むことで話題となった。しかし同時に、中で描かれるのは僧院の住人たちが次々に見立てのような形で殺害されていくというミステリーであり、コナン・ドイルが創造した名探偵、シャーロック・ホームズの冒険譚としても成立していた。読者を満足させるための仕掛けや知識を多段階にわたって入れ込んだ、圧巻の娯楽小説だったのである。 エーコは生前に7作の長篇小説を著した。うち
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