ブックマーク / ncode.syosetu.com (39)

  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 盗られた聖典

    楽しい事を終え、わたし達は神殿に戻る。 「神官長、冬の終わりにアーレンスバッハへ向かうのは雪が深すぎて大変でしょう? 馬車で荷物が運べないと思うのですけれど、どのように移動するのですか?」 神官長達だけならば、騎獣で空を一直線に駆けて行ける。けれど、たくさんの荷物はどうしようもない。 「ある程度は向こうが整えているはずだ。アウレーリアの時もランプレヒトやエルヴィーラが整えていたであろう? 今回、婚約期間も碌に置かずに婚姻となったのはアーレンスバッハの都合だ。春から夏にかけての衣装の類や文具類など、特に貴重ではない物に関してはアウブに頼んで雪が降る前に届くように送ってある。私は卒業式の後で身軽に向かい、雪が解けてから追加分の荷物を送ってもらうのだ」 二回目に送る荷物は貴重品の類が多く、来ならば自分で管理しながら向かう。けれど、雪が解けるのを待って、それからアーレンスバッハに向かって移動す

    本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 盗られた聖典
  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 歓迎の宴

    歓迎の宴は6の鐘から始まる。 日の料理はフーゴとエラも腕を振るった流行の最先端とも言えるエーレンフェストの料理だ。領主会議ですでにお披露目しているので、隠しても意味がない。会議では出さなかったメニューがいくつかあるのは、アーレンスバッハに対してエーレンフェストの価値を少しでも高めて見せようという示威行為らしい。「フェルディナンドの価値をできるだけ高く見せておかねば」と養父様が言っていた。 領主一族が入場し、ゲオルギーネとディートリンデを始めとしたアーレンスバッハの団体が入場することになっているため、北の離れにいる領主候補生は全員集まって移動するように、と言われている。 アーレンスバッハからの客ということで、護衛騎士の顔が緊張したものになっているし、アンゲリカは正装していてもすぐにシュティンルークが手に取れるかどうか、何度も練習していた。 城で他領からの客を迎えることは少ない。シャルロッテ

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 来訪者と対策

    工房に籠って領主候補生の予習をしている中で言われた今後の予定に、わたしは目を瞬いた。 「アウブ・アーレンスバッハはお体の調子が悪いのですよね? その時期に長期滞在をされるのですか?」 神官長への引継ぎを少しでも早く行いたいほどに余裕がないのではなかったのだろうか。わたしが首を傾げると、神官長が顔をしかめた。 「ローゼマイン、アウブ・アーレンスバッハの体調が当に悪いかどうかはわからぬ」 「え?」 「私はユストクスの情報だと言ったはずだ。完全に信用しても良いものではないし、周囲には伏せていることかもしれない。少なくとも、アウブの体調に関しては大っぴらに口にして良いことではない。妙な疑惑の目を向けられて、警戒され、情報源を探られても困る」 来、領主交代に関わりそうなアウブの体調不良は口外される情報ではないそうだ。ゲオルギーネやディートリンデにアウブの体調を問うようなことは絶対にしてはならない

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 引継ぎ

    わたしが泣き腫らした目を癒してもらい、神官長と工房から出る。神官長の部屋では皆が執務中で、ローデリヒがフィリーネやダームエルの様子を見ながら必死に計算をしていて、ハルトムートはユストクスと神官長の側仕え達と何やら話をしているのが見えた。 そして、コルネリウス兄様とエックハルト兄様とアンゲリカとレオノーレがまとまって話をしていて、扉の前を守っているのがユーディットだ。 ……アンゲリカが扉の前を譲るなんて何があったんだろう? 「おや、お話は終わりましたか?」 一番にこちらに気付いたのはユストクスだ。神官長は「あぁ」と頷きながら、自分の執務机に向かう。 「皆、注目」 神官長は軽く手を叩き、自分がエーレンフェストから去ること、代わりの神官長としてハルトムートが就任することを側仕え達に説明し始めた。 「ハルトムートは領主の命令により、文官業務と神官長を兼任することになる。側仕え達はそのつもりで引継ぎ

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 選択

    神殿に戻ってすぐに、わたしは神官長の部屋へ押しかけた。凶悪な顔をした神官長に睨まれても怯まずに「お話をいたしましょう」と言えた自分を褒めてあげたい。 嫌々というのがよくわかる動きで、神官長が工房の扉を開けてくれて、わたしは工房に入る。相変わらずごちゃごちゃと調合器具や素材がたくさんある工房の長椅子を手早く片付けて、座る場所を確保した。 「やっとお話ができるようになって嬉しいです」 嬉しいのは君だけだ、と憎まれ口を叩きながら、神官長も椅子に座る。 「それで、一体何が聞きたいのだ?」 「まず、アーレンスバッハの現状について詳しく知りたいです。神官長が向かうところですから」 アダルジーザについて聞かれると思っていたのか、身構えていた神官長の肩から少しだけ力が抜ける。 「すでに話したと思ったが?」 「足りませんよ。アウブ・アーレンスバッハが長くないとは伺いましたけれど、ユストクスの情報が外れて長生

    本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 選択
  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 領主会議のお留守番 後編

    「フェルディナンド様は何の呼び出しだったのですか?」 呼び出されたその日の夜には神官長が戻ってきていたようだ。次の日は普通に講義が行われる。領主会議で何があったのか尋ねてみたら、「何でもない。もう終わった」と簡潔に返されてしまった。 でも、普段よりも機嫌が悪そうな厳しい顔になっていて、メルヒオールが微妙に怯えているように見える。一緒に講義を受けているヴィルフリートも強張った顔をしていて、神官長の顔色を時々伺っているのがわかった。 非常に緊張感に満ちた講義を終えて、昼を摂る。おじい様が神官長の様子を目に留めて、わたしと同じ質問をした。 「フェルディナンド、領主会議の用件は何だった?」 「……もう終わったことです」 「当に終わったことならば、そのような顔をしているはずがあるまい。何らかの懸念があるのであろう?」 さっさと話せ、とおじい様に言われた神官長が一つ息を吐いた後、口を開いた。 「ア

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 領主会議のお留守番 前編

    祈念式が終わったら領主会議のための打ち合わせが忙しい。イタリアンレストランでプランタン商会やギルド長を始めとした大店の店主達と、去年の反省とどのような改善ができているか、今年の受け入れられるラインなど、下町の状況に関して話し合った。 それに加えて、プランタン商会とは印刷や出版関係に関する要望や最低ラインなどの話を詰める。領主会議に印刷関係の文官として出席するお母様に提出して、貴族側の視点を入れて書き直してもらう。 下町との話が終わったら、今度は城に戻って養父様と打ち合わせだ。 「ダンケルフェルガーとの協議では、エーレンフェストが絶対に譲れないラインはここで、この辺りまでは交渉次第で何とかなるとハルトムートが言っていました。できれば、この辺りまで受け入れてもらえると、今後、他の領地との交渉がとても楽になります」 資料を借りる時、印刷をする時、販売する時、翻訳の印税など、結構細かくプランタン商

    本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 領主会議のお留守番 前編
  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - ギーベ・ライゼガング

    「いってらっしゃいませ、ローゼマイン様」 城でユーディットがレッサーバスから降りて、アンゲリカが代わりに乗り込んだ。周囲の貴族達が出発のために騎獣を出し、順番に空へ向かって駆け上がっていく。 「アンゲリカ、少しは休めましたか?」 「はい。師匠に稽古をつけてもらった以外は休んでいました」 ……あんまり休んでなさそう。 直轄地の祈念式とライゼガングの両方で護衛任務に就いてもらうことになるのでアンゲリカに数日の休みを与えたのだが、あまり意味はなかったようだ。 「魚を切ってローゼマイン様に褒められた話をしたところ、師匠が稽古をつけてくれることになったのです。次回はより鋭い剣捌きを見せよ、と。師匠も討伐に参加したかったそうです」 「次の機会があって、神殿で良ければお招きいたします、と伝えてくださいませ」 「かしこまりました。師匠がさぞお喜びになるでしょう」 アンゲリカが楽しそうに弾む声で、どのくらい

    本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - ギーベ・ライゼガング
  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 祈念式とライゼガングへの出発

    わたしが春の洗礼式を終えるより先に、ヴィルフリートが聖杯や魔石を持って祈念式に出発した。祈念式を終えると、すぐにライゼガングに向かって印刷関係の最終確認をしなければならないので忙しいらしい。 「私も其方の真似をして騎獣を使って移動し、午前と午後に祈念式を行うのだ。なるべく早く終えて、ライゼガングに行かねばならぬ」 「わたくしの真似をするのは構いませんが、回復薬を忘れずに準備していますか? 午前と午後で祈念式を行うと負担が大きいですよ」 わたしの魔力が籠った魔石を使うのだから、それほど自分の魔力を使うわけではないのかもしれない。それでも、一日に二回の祈念式は大変だと思う。わたしの言葉にヴィルフリートは神官長を一度見た後、ゆっくりと頷いた。 「うむ。準備した。自分で作れるようになったからな」 ……神官長の優しさは必要ないってことかな? かなりひどい味だが、講義で教わった回復薬とは効果が全く違う

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - アーレンスバッハのお魚料理

    春を寿ぐ宴が終わると、冬の社交界は終わりだ。貴族達はそれぞれの土地へ帰っていき、貴族街に住んでいる者は通常の仕事が始まる。そして、わたしは神殿に戻り、下町の冬の成人式と春の洗礼式を行うのである。 「例年の予定によると、ローゼマインは近いうちに神殿に戻るのだな?」 メルヒオールも一緒に事を摂るようになり、少しばかりにぎやかになった夕の席で今後の予定について話をしていた養父様を、わたしは軽く睨んだ。例年通りならば養父様の言葉は間違っていない。でも、今年はそう簡単に神殿に帰るわけにはいかないのだ。わたしは最も重要な約束を果たしてもらっていない。 「まだ戻れません」 「どうした、ローゼマイン? 何かあったか?」 何かあったか、ではない。とても重要なことが忘れられている。わたしはむぅっと唇を尖らせた。 「養父様はいつになったらわたくしの料理人に魚料理の調理方法を教えてくださるのですか? 貴族院か

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 聖典検証会議

    会議前日の5の鐘が鳴る頃、神官長がユストクスやエックハルト兄様を連れて寮にやってきた。報告書だけではわからないことを聞き、会議の打ち合わせをするためである。出迎える学生達が緊張して待つ多目的ホールで、神官長がずらりと並ぶ学生達を一度見回し、指示を出し始めた。 「リヒャルダ、ローゼマインと話をするための部屋の準備を」 「かしこまりました」 リヒャルダとブリュンヒルデがすぐに出ていき、神官長は真ん中に立つヴィルフリートとシャルロッテに視線を向ける。 「ヴィルフリート、シャルロッテ。今回の呼び出しはターニスベファレンの討伐に関連して行われたことだ。エーレンフェストが討伐したことを周囲に漏らさぬことになっているので、私の呼び出しも大っぴらに語られるようなことではない。ローゼマインの後始末は私が全面的に引き受けるので、其方等は寮を取りまとめ、社交の手を抜かぬように」 「よろしくお願いします、叔父上」

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 収穫祭とグレッシェル

    心配していた下町の状況も特に問題なく終わったようで、ホッと安堵の息を吐いた。ただ、話を聞いた限りでは、今年の商人の受け入れだけで限界状態のようだ。来年、取引先を増やすのは難しいだろう。来年増える商人の分まで、高級な宿とその従業員がたった一年で準備できるはずがない。 ……リンシャンや髪飾りは作り方を売ることも視野に入れた方が良いかも。 次の朝、灰色神官達は当に朝早くから動き出して、畑で野菜を収穫して、荷物に詰めてくれた。 その間にわたしは朝である。今日の献立は小神殿の畑で収穫したばかりの新鮮野菜のスープとサラダ、そして、エーレンフェストから運んできたベーコンが早速切られて焼かれている。 昨日からフーゴが仕込んでくれていたパンには、黒すぐりに似ているヴィオレーベという木の実と蜂蜜で作ったジャムをたっぷりつけてべる。このジャムはハッセの巫女達がわたしのために森で摘んで、煮詰めて、今日のため

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - イタリアンレストランへ行こう

    次の日、わたしは会合に関する神官長への報告をフランに任せ、神殿で過ごしていた。 朝後にエラを呼びだしてもらい、「結婚祝いです」と髪飾りをあげたら、感激のあまり泣かれたり、ロジーナとフェシュピールの練習をしていたら、神殿へとやってきたフィリーネに感心されたり、奉納舞のお稽古をしていたらハルトムートに「奉納舞では祝福は出ないのですか?」と聞かれたり、いつも通りなのに、いつもと少し違う時間になった。 3の鐘が鳴ったら、文官見習いと護衛騎士を連れて、神官長のところへお手伝いに行く。扉の前を死守するアンゲリカ以外の側近達に仕事を割り振った神官長がわたしを呼んだ。 「ローゼマイン、フランからの報告を受けた。衣装を仕立てるために一度城へと戻るのか?」 「夏の衣装ですから、急がないと、できあがる時には夏が終わってしまいますもの。それに、お母様達に染め物の催しに関する話もしなければならないのです」 「ふむ

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 留守番中の生活 前編

    熱が下がっても、すぐには寝台から下りる許可が出なかった。リヒャルダによると、神官長の言いつけだそうだ。熱が下がってから二日間はおとなしくさせておくように、とを預かっているらしい。「良い子にしていないと、はお預けですよ」と言われた。 もちろん、わたしは良い子なので、寝台でおとなしくを読んで過ごす。魔法陣の基礎に関するだった。属性を示す記号やら、神様を象徴する記号やら、新しい言語を覚えなければならない感じだ。というよりは辞書である。筆跡から察するに、神官長が書いた物だ。 ……こういう辞書を持たずに、あんなにスラスラと魔法陣を空中に描ける神官長ってすごいよね。 「フィリーネ、一緒にこれを覚えませんか?」 「……すごいですね」 わたしは魔法陣の勉強をまだ受けていないフィリーネを枕元に呼んで、一緒に記号の勉強をしつつ、二日間ののんびり読書タイムを楽しんだ。 「さぁ、姫様。急いで支度をしてく

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - ハルデンツェル 前編

    翌朝、グーテンベルクとして活動する灰色神官達を乗せた馬車は、父さん達兵士と共にエーレンフェストの街に向かって出発する。 「ギュンター、皆様、どうぞよろしくお願いいたします」 「ローゼマイン様のお言葉は必ず皆に伝えます。ご安心ください」 いつも通りの出張費を兵士達に渡した後、その馬車を見送った。すぐに自分達も次の冬の館へ向かって出発しなければならない。 「ギルとフーゴは今夜の宿泊地へ向かってくださいね」 「はい、ローゼマイン様」 わたしの荷物を載せた馬車が出発すると、見送りに出ている小神殿の神官や巫女を見回す。 「わたくしが眠りについていた二年間、ハッセの住民とも協力し合い、良い関係を築くことができました。それはエーレンフェストの神殿が未だ達成できていない素晴らしいことです。これからも頑張ってくださいね。……トール、おいしい野菜が収穫できたら教えてくださいませ。べに来ますから」 わたしが畑

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - ハッセの祈念式

    会議を終えてから祈念式の一週間前までの間、わたしは城で過ごすことになった。 ヴィルフリートとシャルロッテには祈念式で向かう場所やその順番について話をして、それぞれに準備を整えてもらう。今回、神殿からの側近は神官長の側仕えから出ることになっている。 「向かう場所は以前に話し合った通りの分担になりました」 「……お姉様お一人だけ、ずいぶんと日数が短いですわね」 「わたくしは騎獣を使いますから」 わたしの祈念式の日程は皆の半分ほどだ。別に回る数が少ないわけではない。騎獣を使って、一日で数カ所回るので短いだけだ。 「ならば、私も短くできるのではないか?」 「ヴィルフリート兄様は無理ですよ」 「う?」 「わたくしの騎獣は乗り込み型で、これまでずっと行ってきたので、自分の側仕えでもある灰色神官や灰色巫女を一緒に乗せられます。けれど、ヴィルフリート兄様の騎獣は普通の一人乗りですし、貴族達が灰色神官達を同

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - ギルベルタ商会への依頼

    新しい研究材料を手に入れた神官長は、お手伝いの時間だけは工房から出てくるけれど、それ以外の時間は籠りっぱなしになってしまったらしい。4の鐘が鳴ると同時に仕事を終えた神官長が工房へと入っていった。 エックハルト兄様は神官長のことを心配しているが、一日一度はご飯をべているようなので、死にはしないと思う。 「だが、このような籠り方が続くと……」 「春の洗礼式が終わったら城へと移動することになるのですから、それまでくらいは研究させてあげても良いではありませんか」 仕事が滞っているわけではないのだから、誰も困らないし、一週間くらい放っておいてあげれば? と言いながら、わたしは自分の持ってきた石板や石筆を片付けていく。 わたしも一週間くらい読書タイムが欲しいな、と考えていると、エックハルト兄様がほんの少し不満そうに目を細めた。 「ローゼマイン、其方、意外とフェルディナンド様には甘いな。兄である私の心

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 神殿での生活

    とりあえず、わたしは常識が違いすぎるので、何か書いた時は必ず持ってくるように、と神官長はくどいくらいに念を押して帰っていった。 わたしは「はい」と返事をしつつ、破廉恥呼ばわりされた小説を鍵のかかる書箱に入れて、封印しておく。破棄を命じられたけれど、もしかしたら、日の目を見る時がいつか来るかもしれない。 「フラン、厨房へ行ってフーゴとエラを呼んできてくださる? 先程決まった話をしてしまいたいのです」 「ローゼマイン様、料理人に声をかける時には側仕えを挟んでいただきたいのですが」 「ごめんなさいね、フラン。でも、結婚に関することですから、直接お話した方が良いと思うのです。フランはもちろん、ここにいる側仕え達はわからないことの方が多いでしょう?」 わたしがそう言うと、仕方なさそうにフランが溜息を吐いた。仕事に関することならば、フラン達側仕えを間に挟んでも問題ないが、結婚などの生活に関する話はフラ

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 約束

    わたしが中に入ると、それに続いて皆が入ってくる。わたしはギルが引いてくれた自分の椅子に座り、フランが丁寧に扉を閉めたのを確認して、ゆっくりと皆を見回した。 護衛であるダームエルは定位置であるわたしの背後に立ち、フランは扉の前、ギルは右隣の側仕えとしての定位置についたけれど、プランタン商会の三人は立ち位置を決めかねているような顔でユストクスとわたしを見比べている。 「ルッツ、ベンノさん、マルクさん、ユストクスはいるけど、いつも通りにそこに座って。ユストクスは全部の事情を知っている人だから気にしないでね」 「え?」 ルッツが驚いたような声を上げて、ユストクスを見上げた。ユストクスは軽く肩を竦めて、ルッツを見下ろす。 「フェルディナンド様の命により、下町のマインについて調べたのは私だ。だからこそ、二年間、プランタン商会と工房を任された。今日もこの場に立ち会うのはフェルディナンド様の命令なのだ」

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  • 本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ - 社交週間の始まり

    「遅いではないか、ローゼマイン!」 貴族院の寮へと戻ると、ヴィルフリートが仁王立ちで手を腰に待ち構えていた。わたしが城へ戻った時の養父様と似たような格好で、似たようなことを言っているのを見ると、「よく似た親子だな」と妙に感心してしまう。 「ただいま戻りました、ヴィルフリート兄様。……けれど、帰還日程を決められたのはアウブ・エーレンフェストとフェルディナンド様ですから、わたくしに怒られても困ります」 「だが、其方がいないせいで、こちらは当に大変だったのだ!」 格的な社交のシーズンに入り、お茶会の招きが例年とは比べ物にならないくらいに増え、どうしても断れない上位領地が相手のお茶会には、ヴィルフリートが出席して当たり障りのない答えを返していたらしい。 加えるならば、それぞれの階級や役職での集まりも例年より誘いが多く、質問が多かったようだ。 お茶会が増えたことも大変だったようだが、周囲からの注

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