連載第23回 イップスの深層~恐怖のイップスに抗い続けた男たち 証言者・赤星憲広(1) 前回の記事はこちら>> 阪神のセンターを守る赤星憲広は、いつも中日戦になると独特の緊張感に包まれていた。とくに打席に井端弘和が立つとなおさらだ。 井端が持ち前のシュアな打撃でセンター前に打球を運ぶ。ごく普通のセンター前ヒット。だが、赤星はいつも以上に注意深く前進して打球を抑える。視線を一塁ベースに向けると、井端が大きくオーバーランし、今にも二塁を狙う姿勢を見せている。赤星はあわててカットマンまで返球する。ボールがうまく二塁まで到達したのを見て、冷や汗を拭うのだった。 井端と赤星の密かな攻防に、スタンドでは誰も気づいていなかったかもしれない。だが、赤星にとってこのスリリングさが中日戦の日常だった。現役生活を終えて10年が経った今、赤星は苦笑交じりに振り返る。 現役時代は6度のゴールデン・クラブ賞に輝くなど