ペリクレスはひとまずおいて、徳としての「知慮(フロネーシス)」についての諸先達の見解をながめてみる。 アーレントの解釈 アーレントは「文化の危機」において政治的判断力について次のように言っている(引用は『過去と未来の間――政治思想への8試論』p299)。 ギリシア人はこの能力をフロネーシスすなわち洞察力と呼び、それを政治家の第一の徳あるいは卓越と見なし、哲学者の知恵から区別した。この判断する洞察力と思弁的な思考の違いは、前者はわれわれが共通感覚と通常呼ぶものに根ざすのに対して、後者は絶えずこの共通感覚を超越する点にある。共通感覚−−フランス語では示唆的にも「良識」(le bon sens)と呼ばれる−−は、共通世界であるかぎりでの世界がもつ本性をわれわれに開示する。われわれの厳密に私的で「主観的」な五感やそれらの感覚与件が、われわれが他者と共有し分かち合う非主観的で「客観的」な世界に適合し