誰もいない展望台から夕陽を眺める。少しだけ錆びついた白い金網の柵には、たくさんの南京錠がかけられていた。 「懐かしいな」と絢子は目を細め、遠く水平線を見つめた。 金色の空はやがて薄紫色のグラデーションに浸食され、気が付けば絵の具を溶かすように藍色が深く夜へと導いてゆく。いつのまにか、周りにはチラホラとカップルの姿が増えていた。 「私もこんなだったかしら」と胸に問いかけてみる。 絢子は、ポケットの中でずっと握りしめていた南京錠を取り出すと、カチリと柵に取り付けた。 すでに濃紺のマジックアワーはその役目を終え、本格的な夜景が眼前に広がっている。 もう一度、展望台から平塚の街をゆっくりと見下ろした絢子は、 「あの時と同じなのにね」 と独りごちて、そうして誰ともなしに「じゃあね」と踵を返し歩きはじめた。 絢子はもう振り返ることはしなかった───。 ◇◇◇ それは高校二年生の夏だった。 部活の合宿で
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