「フラットな対話」と称するコミュニケーションに隠された「暴力」を考える それ、本当に「フェア」ですか? 主張する力を奪われる おれじゃない、と与田正は言っただろうか。/しかし、やったのにやってないと言うのが、与田正なのだ。(今村夏子「嘘の道」、『群像』2020年10月号 63頁) 今村夏子が先日発表した「嘘の道」は、街中の人々から不当に実際以上に嘘つきだと見なされている与田正という少年を物語の中心に据えた短編だ。この物語では、やがて重大な事件が起き、与田正がその実行者であるという噂が流れるようになる。読者はその流れを彼の無実を知りながら読み進めるのだが、そこで現れるのが上に引用した語りだ。 「やったのにやってないと言うのが、与田正なのだ。」 これは、街の人々の(偏った)認識を表す一文である。そのような認識を街の人々が共有する限り、与田正が「やっていない」といくら言っても、それは自動的に嘘と