約60年前にベストセラーになった伊藤整のエッセイ『女性に関する十二章』の章立てに沿って書かれた長編小説だ。夫が仕事で必要としたのをきっかけに、妻の宇藤聖子も同書を読み始めるところから物語はスタートする。 聖子はパート先で、眼鏡からパソコンまで器用に修理する元ホームレスと知り合い、「お金を持たない生活」に触発される。初恋の男性の遺児が現れ、一生童貞と危ぶんだ息子が突然、彼女を連れて帰宅する……。当初は古臭いものに映っていたエッセイが、日々の雑事のなかで響き合い、途中から聖子のなかで輝きを放ち出す。 田山花袋の『蒲団』をもとにした『FUTON』でデビューした著者の再生手法が冴えを見せる。映画「男はつらいよ」をめぐるやりとりがいい気配を醸し、人生の意味を考えさせられる。