最近、村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を読み直した。 これは、私が村上春樹の著作の中で最も気に入っているものの一つだ。 私が村上春樹を読むのは、「主人公が突然、理不尽な目に遭い、そして旅の中でそれを淡々と受け入れる」という、村上春樹の小説のテンプレートが好きだからだ。 恋人が突然自殺したり、友人から理不尽に絶縁を申し渡されたり、妻が突然家を出て、他の男のところへいったり。 ハードボイルド・ワンダーランドでもそれは例外ではない。 主人公は部屋を壊され、腹を切られ、挙げ句の果てにはマッドサイエンティストに脳みそをあれこれいじられ、「あと29時間で世界の終わりが来る」と告げられる。 ところが主人公は激昂もせず、取り乱すこともなく、淡々と飯を食い、ビールを飲み、床屋へ行って髪を切りたい、と言うのである。 しかし、考えてみれば、程度の差こそあれ、わたしたちも全く同じ状況に置