『冷たい熱帯魚』(10 園子温) 「実話を元にしている」ことを字幕によって執拗に強調する編集は、これ見よがしに富士山を映したカットが挟まれることで頂点に達する。「これから実話を演じます」とても言わんばかりだ。 「ボディを透明にした」吉田(諏訪太郎)の失踪を怪しんだ弟分のヤクザ(三浦誠巳)を騙して追い返すため、細部に至るまで隙のない嘘がつけるよう、村田夫妻(でんでん、黒沢あすか)、弁護士(渡辺哲)の指導のもと何度も社本(吹越満)が練習させられるシーンは、いくらか実話としての要素をブラックユーモアも交えつつ気にしている。 映画は社本が車内で村田夫妻や妻(神楽坂恵)の眼を離れ眠りにつく間に変化する。彼らの犯行を裏で支えていただろう弁護士のボディが透明にされてから、実話としてのディテールをほぼ意図的に消失していく。映画からヤクザ、弁護士のような第三者たちが消え(この映画のように渡辺哲を演出できた映