2014年06月06日 (金) 一橋大学教授 石黒 圭 私は、ふだん大学で留学生に日本語を教えています。日本語を初めて学ぶ留学生がまず驚くのは、日本語に自分のことを指す言葉、一人称の種類が多いことです。たしかに、「私」「僕」「俺」「わし」「おら」「おいら」「あたし」「うち」「わたくし」「小生」「我輩」「拙者」など、本当にさまざまで、留学生は戸惑います。日本人は、なぜ、こんなにたくさんの一人称を使うのか。英語なら「I」ひとつで済むのに、というわけです。 いったいなぜ、日本語にはこんなにたくさんの一人称があるのでしょう。その答えは逆説的ですが、日本語が一人称をふつう使わない言語だからです。「こんにちは。石黒です。今日は一人称についてお話しします」は自然ですが、「こんにちは。私は石黒です。今日は私が一人称についてお話しします」は不自然でしょう。「私」を繰り返すと、自己主張の強い人だなあとい