餅(もち) 餅と言えば正月の雑煮を思い出すほど、新年の付き物みたいになっているが、元々は祝い事や豊作を神に感謝するための供え物として、正月ばかりでなく、祭礼や普請、婚礼などの催事にも作られた。だから、「餅」そのものは特定の季節を表わすものではなく、従って江戸時代には季語として取り上げられていなかった。 しかし、新年が餅を最もたくさん消費する時季であることは、昔も今も変わりがない。新年用の餅を作るのは年の暮である。昔は暮れも押し詰まり二十六、七日頃になると、あちらこちらで餅搗(もちつき)が始まり、町中にぺったんぺったんという杵の音や威勢のいい掛け声が響き渡った。正月を迎えるのだという、はずむような気持を抱かせる行事だった。その印象が非常に強かったせいであろうか、「餅」は季語にならないが「餅搗」という行為を表す言葉は歳末の雰囲気を伝えるものとして季語になった。それと並んで、搗いた餅をあちこちに