かつて、「永遠に思えるブラックホールもやがて質量を失い、最後には蒸発するだろう」とホーキングは予言し、物理学界に衝撃を走らせた。ただ、その観測は長いあいだ困難を極めていた。その新たな可能性を切り拓くのが、「人工ブラックホール」を用いた検証である。 本連載では、その研究の最前線で世界的な注目を集める物理学者の2人、片山春菜氏(広島大学助教)と畠中憲之氏(広島大学教授)にその意義を解説してもらおう。 そもそも「量子」とは? さて、ホーキング博士が考案した、 「ブラックホールに量子効果を導入する」というアイデアは、 具体的にどういうことでしょうか。これを理解するために、量子効果について簡単に触れておくことにしましょう。 原子や電子などのミクロな世界では、私たちが日常生活で経験することとは大きく違うことが起きています。実際、粒子だと思っていた電子は波のようにふるまい、波と思っていた光は粒子のように