複眼の映像 私と黒澤明 名文多々。 橋本忍と、師である伊丹万作との【原作物を脚本化する】ことについての会話。(ちなみに今から66年前、1941年の会話である) 伊丹「原作物に手をつける場合には、どんな心構えが必要と思うかね」 瞬間だが私は正座のまま両腕を組んだ。 橋本「・・・牛が一頭いるんです」 伊丹「牛・・・?」 橋本「柵のしてある牧場みたいな所だから、逃げ出せないんです」 伊丹さんは妙な顔をして私を見ていた。 橋本「私はこれを毎日見に行く。雨の日も風の日も・・・あとこちと場所を変え、牛を見るんです。それで急所がわかると、柵を開けて中へ入り、鈍器のようなもので一撃で殺してしまうんです」 伊丹「・・・・・」 橋本「もし、殺し損ねると牛が暴れだして手がつけられなくなる。一撃で殺さないといけないんです。そして鋭利な刃物で頚動脈を切り、流れ出す血をバケツに受け、それを持って帰り、仕事をするんです