ブレイディみかこさんの「欧州季評」(最終回) 「要は経済なのだよ、馬鹿者が」 これは、1992年の米大統領選でクリントン元大統領の陣営が使った有名な言葉だ。ちなみに、この連載が始まったのは、それから四半世紀が過ぎた2017年。だが、この5年間、わたしは欧州季評を書きながら幾度となくこの言葉を思い出したのだった。クリントン元大統領は選挙で勝つための標語としてこの言葉を使ったし、わたしも左派が支持を伸ばすために「要は経済」の姿勢が肝要だと信じていた。だが、そういう呑気(のんき)な時代は終わった。「生活費危機」が広がる英国では、この言葉はもはや戦略ではなく切実な現実だ。 この年末年始、少なくともわたしの周囲には浮ついたムードはなかった。わたしの友人や知人には、コロナ禍中にいわゆる「キー・ワーカー」と呼ばれた人々が多い。彼らにとってこの冬は「ストライキの季節」だ。看護師、救急隊員などの医療従事者、