シューベルトの『冬の旅』は、ピアノ伴奏を伴った(通例は)男声による歌曲集だが、伴奏であるはずのピアノが独唱と同等の存在感を最初から最後まで湛え、聴く者の耳を捉えて離さないという意味で、やはり特殊な音楽ではないかと思う。これは僕の新しい発見ではなくて、この曲が好きな人はおそらく皆そう感じているはず。であるが故に、と言ってしまってよいと思うのだが、普段は歌曲の伴奏になどまわらないスター・ピアニストが最近は多くの録音を残すようになっている。 今日聴いたマティアス・ゲルネが歌い、アルフレート・ブレンデルがピアノを弾く盤を聴いて、(また、いま二度目の視聴を繰り返しながらこれを書いているのだが、)あらためてこの曲がピアノのための歌曲であることを痛感させられた。 マティアス・ゲルネは去年の秋に東京でもシューベルト三大歌曲のリサイタルを開いていたドイツの人気バリトン歌手である。このCDでは、その深々とした