歴史修正主義な御仁がよくふりまわす言葉に「現在の価値観で過去を断罪するな」というものがある。たとえば、日中戦争当時の帝国臣民が南京陥落を受けて提灯行列に繰り出してバンザイバンザイとはしゃぎまわったことも、「戦後の平和主義から見ると異様だろうが、当時としてはあたりまえだった」的に使用する。大日本帝国による欧米植民地への侵略をはじめ日本軍の捕虜虐待や華僑系住民の虐殺などなど、枚挙にいとまがないひでえことがらの数々を正当化してゆくためにも、この論は駆使されている。 この「現在の価値観で過去を断罪するな」という愚論については、E・H・カーの「歴史は現在と過去の対話である」をひきつつ、歴史を見る主体と歴史的過去との関係から〈歴史とは何か〉に及ぶまじめな考察も可能だろう。しかしその前に、この論が前提としている「現在の価値観」とそれに対立する「過去の価値観」なるものが、そもそもよくわからないしろものなの