・聖家族 正月休みに、何かにとり憑かれたかのように読んだ長編。紛れもない大傑作である。2段組730ページの分厚い本だがこの体積の中には一つの宇宙が丸ごと取り込まれている。今、絶対的に圧倒的な作品を読みたければ、まずこれである。特別賞だ(何かの)。 日本の歴代の支配者達は古代から明治になるまで、鬼門の方位にある異民族を制圧する将の意味である「征夷大将軍」を名乗ってきた。その抑圧と抵抗の東北の歴史の中で、不思議な魂の交信能力を脈々と受け継いできた青森の名家 狗塚家の700年間にも及ぶ年代記だ。 現代の狗塚家に生まれた三兄弟、牛一郎、羊二郎、カナリア。牛一郎は行方不明。死刑囚として牢屋にいる羊二郎と、先祖や胎児と話す能力を持つカナリアの二人を中心に物語が語られる、超越的な語り手によって。この語り手は人間ではないだろう。それは東北の土地そのものといえる。土地に残された過去の記憶が、なにも知らずに今