タグ

ブックマーク / www.aozora.gr.jp (5)

  • 宮沢賢治 ツェねずみ

    ある古い家の、まっくらな天井裏に、「ツェ」という名まえのねずみがすんでいました。 ある日ツェねずみは、きょろきょろ四方を見まわしながら、床下街道(ゆかしたかいどう)を歩いていますと、向こうからいたちが、何かいいものをたくさんもって、風のように走って参りました。そしてツェねずみを見て、ちょっとたちどまって早口に言いました。 「おい、ツェねずみ。お前んとこの戸棚(とだな)の穴から、金米糖(こんぺいとう)がばらばらこぼれているぜ。早く行ってひろいな。」 ツェねずみは、もうひげもぴくぴくするくらいよろこんで、いたちにはお礼も言わずに、いっさんにそっちへ走って行きました。ところが戸棚の下まで来たとき、いきなり足がチクリとしました。そして、「止まれ、だれかっ。」と言う小さな鋭い声がします。 ツェねずみはびっくりしてよく見ますと、それは蟻(あり)でした。蟻の兵隊は、もう金米糖のまわりに四重の非常線を張っ

  • 『善の研究』・第一編

    西田幾多郎 序 この書は余が多年、金沢なる第四高等学校において教鞭を執っていた間に書いたのである。初はこの書の中、特に実在に関する部分を精細に論述して、すぐにも世に出そうという考であったが、病と種々の事情とに妨げられてその志を果すことができなかった。かくして数年を過している中に、いくらか自分の思想も変り来り、従って余が志す所の容易に完成し難きを感ずるようになり、この書はこの書として一先ず世に出して見たいという考になったのである。 この書は第二編第三編が先ず出来て、第一編第四編という順序に後から附加したものである。第一編は余の思想の根柢である純粋経験の性質を明(あきらか)にしたものであるが、初めて読む人はこれを略する方がよい。第二編は余の哲学的思想を述べたものでこの書の骨子というべきものである。第三編は前編の考を基礎として善を論じた積(つもり)であるが、またこれを独立の倫理学と見ても差支ない

    expiation
    expiation 2007/12/27
    あとで
  • 絶対矛盾的自己同一

    西田幾多郎 一 現実の世界とは物と物との相働く世界でなければならない。現実の形は物と物との相互関係と考えられる、相働くことによって出来た結果と考えられる。しかし物が働くということは、物が自己自身を否定することでなければならない、物というものがなくなって行くことでなければならない。物と物とが相働くことによって一つの世界を形成するということは、逆に物が一つの世界の部分と考えられることでなければならない。例えば、物が空間において相働くということは、物が空間的ということでなければならない。その極、物理的空間という如きものを考えれば、物力は空間的なるものの変化とも考えられる。しかし物が何処(どこ)までも全体的一の部分として考えられるということは、働く物というものがなくなることであり、世界が静止的となることであり、現実というものがなくなることである。現実の世界は何処までも多の一でなければならない、個物

    expiation
    expiation 2007/12/27
    あとでじっくりとよむ
  • 中原中也 : 青空文庫

    詩人。17歳頃から詩作を始め、詩人・高橋新吉の作品の影響を受けて一時ダダに傾倒。その後は、フランス象徴詩の影響下に詩作を続けた。37年10月22日、結核性脳膜炎がもとで急死。 「中原中也」 公開中の作品 Me Voilà ―― à Cobayashi(新字旧仮名、作品ID:50255) 秋の日曜 (新字旧仮名、作品ID:51308) (あなたが生れたその日に) (新字旧仮名、作品ID:55909) 在りし日の歌 亡き児文也の霊に捧ぐ(新字旧仮名、作品ID:219) アンドレ・ジイド管見 (新字旧仮名、作品ID:50258) 医者と赤ン坊 (新字旧仮名、作品ID:50238) いちじくの葉 (新字旧仮名、作品ID:51309) いちぢくの葉 〔夏の午前よ〕(新字旧仮名、作品ID:51891) 一度 (新字旧仮名、作品ID:55892) 海の詩 ――人と海――(新字旧仮名、作品ID:55706

  • 太宰治 グッド・バイ

    文壇の、或(あ)る老大家が亡(な)くなって、その告別式の終り頃から、雨が降りはじめた。早春の雨である。 その帰り、二人の男が相合傘(あいあいがさ)で歩いている。いずれも、その逝去(せいきょ)した老大家には、お義理一ぺん、話題は、女に就(つ)いての、極(きわ)めて不きんしんな事。紋服の初老の大男は、文士。それよりずっと若いロイド眼鏡(めがね)、縞(しま)ズボンの好男子は、編集者。 「あいつも、」と文士は言う。「女が好きだったらしいな。お前も、そろそろ年貢(ねんぐ)のおさめ時じゃねえのか。やつれたぜ。」 「全部、やめるつもりでいるんです。」 その編集者は、顔を赤くして答える。 この文士、ひどく露骨で、下品な口をきくので、その好男子の編集者はかねがね敬遠していたのだが、きょうは自身に傘の用意が無かったので、仕方なく、文士の蛇(じゃ)の目傘(めがさ)にいれてもらい、かくは油をしぼられる結果となった

  • 1