あの子みたいな、なんていうか作ってるの、俺、ダメだな。近くの席から男の声が聞こえた。だいぶ大きい声で、そうでなければ言葉遣いの端々まで聞き取ることはできない程度の距離が空いていた。声は断続的に高まりながらしばらく続いた。可愛らしさを取り繕っている女性について話しつづけているようだった。サメル、ナエル、というような音声が、何度か挟まれた。私と彼女は目を見交わし、彼女の夫は声のするほうをちらりと振りかえって、口の端を上げた。中年になってもこの夫婦の容貌の優れていることに変わりはなく、いけすかなさには拍車がかかったと私は思う。高慢で口さがなく姿勢が良く、いつも磨かれた靴を履き、生活は意外と地味で規則正しい。 このいけすかない夫妻がいけすかない若い男といけすかない若い女であったころを私は知っている。そのころの彼らには虚勢の気配があり、緊張感があった。他人をこきおろすからには自らの品質を保たなければ