「幸せに生きていくための魔法の言葉、それが数学」と聞いたら、学校で数学に悩まされた経験を持つ多くの読者は驚くだろう。何を隠そう、大学時代に数学で零点を頂戴した評者自身、高等数学から限りなく離れる人生を送ってきた。しかし、著者が高校生の娘へ数学の面白さについて語り始めた途端、「あの数学」に対する評価はガラリと変化した。 本書は人類が3000年もかけて築き上げた数学の世界を、生活にも身近な確率から純粋数学まで9つの話題で解説する。空想の数「虚数」について語られる第8話では人生の決断が指南される。 「16世紀の数学者たちには、どうがんばっても解の公式から虚数を取り除くことはできなかった。(中略)その後数世紀の間に、この空想の数は数学のさまざまな問題で活躍するようになってきた。それと並行して、数学者の間では、数の概念を拡張することへの抵抗が薄れてきた」(194ページ)。数学者たちが虚数を受け入れて