わたしがおよそ30年間にわたって追いかけている研究テーマは、インド文明の人類学的研究である。とくに、ベンガル地方の「バウル」とよばれる宗教的芸能集団に焦点をあてて研究をすすめている。本稿では、ベンガルのバウルを紹介しつつ、「バウルという生き方」について考察する。 バウルがベンガル社会にあたえているイメージは、わざと社会の規範からはずれようとする狂人のイメージである。バウルはカーストやカースト制度をいっさいみとめない。またバウルは、偶像崇拝や寺院礼拝をいっさいおこなわない。彼らの自由奔放で神秘主義的な思想は、世間の常識や社会通念からはずれることがあり、人びとからは常軌を逸した集団とみなされることがおおいのである。実際に、ベンガル語の「バウル」という語は、もともと「狂気」という意味である。そしてその語源は、サンスクリット語の“vâtula”(「風邪の熱気にあてられた」、「気が狂った」)、あるい