私は海をほとんど見ずにここまで生きてまいりました。 いわゆる海なし県の出身です。海のある都道府県に住む人でも湾岸や島にでも住まない限り、まあそれほど頻繁に海を見る機会などはあまりないでしょうが、当時の私は成人するまでに5本の指を折れるか折れないかほどしか海を見たことがなかったのです。 私の育った地域はすぐ数百メートル先には名もなき丘のような山があり、それでいて生活が不便な田舎ではありませんでした。陽を遮られるから日が暮れるのは恐ろしく早く、春はといえば山はポップカラーな新種のカビが生えたようにもこもこし出す。 夏は黒に近い緑色が一面を覆い、日陰を探してジグザグ道を歩く日々。晩秋ともなれば一気に周囲の彩度が落ちる一方で、花粉の時期には空が黄色くなりました。 きっと住んだことのない人からすれば想像もつかない風景でしょうが20年近く、これが日常として感じていた人間がいることもまた事実です。 だか