戦後の政治家で誰がもっとも演説がうまかったか。中高年世代では、田中角栄元首相を挙げる人が多い。だみ声で政敵を攻撃し、速射砲のように数字をあげて政策を語ったかと思うと、笑わせ、最後は人情話でしんみりさせた。 ▼ロッキード事件で逮捕された後は、「末ついに海となるべき山水も しばし木の葉の下くぐるなり」という歌を演説に織り込むのが常だった。いずれ首相として復権してみせる、という執念がひしひしと伝わってきた。 ▼いま話題の石破茂氏は、角栄の“最後の弟子”にあたる。国会議員だった父の死後、田中派の秘書となり、衆院選立候補までに「戸別訪問3万軒、辻(つじ)説法5万回」をするよう厳命され、見事にこなした。選挙に強いのも角さん譲りである。 ▼安倍晋三首相と石破氏が会談し、幹事長更迭が事実上決まった。首相は閣僚として遇するようだが、まあ左遷には違いない。尻をまくって無役になる、というのも格好はいいが、現実的