谷崎潤一郎の「細雪」はよく知られているように戦時下に「中央公論」に連載される予定であったが軍部の忌諱にふれ、二回分が掲載されたのみで連載は途絶した(昭和十八年)。発表のあてのない小説を谷崎は孜々として書き継ぎ、十九年臘月秘かに中巻を脱稿した。谷崎は上巻二百部を私家版として知人に配ったが軍部の干渉は微々たる私家版にも及んだ。このたびは見逃してやるが、また同じことをすると今度は容赦しないからな。緊迫した戦局下において軟弱かつきわめて個人主義的な女人の生活を綿々と書き連ねた小説であるとかれらが指弾したということは、アンソニー・チェンバースのいうように谷崎が「超国家主義や軍国主義を(略)拒絶したということであり、そうすることで政治的な立場をとった」といえなくもない*1。中野重治は、共産主義者が弾圧されていた時代に書かれたこうした浮世離れした小説はどうしても読めないのだとどこかで述懐していたけれども
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