「酷くないよ」 三枚並んだ白黒の絵を見て素っ頓狂な声をあげた私を見下ろして、彼は素知らぬ顔で微笑み、ピクチャーレールにかかっている額のしたの部分を指先で押して、ほんの一ミリ程度のズレをなおした。 「だって、これ、本物のゴヤ、だよね?」 「もちろん。鑑定書あるよ」 ひどい、と言いたくなるのは自分の絵がいかに粗雑なのか、どうしようもないのかわかったからだった。 先週、ミズキさんのお店のHPやポップ、フリーペーパーのために絵を渡していた。もっていったのは十五枚で、女性ファッション誌風のイラストだ。それらは最初からR&Bの女性アーティストやオシャレ系カリプソシンガーとか、ある程度イメージを指示されていた。五枚選んでもらってしめて一万円にもなって、こんなことでお金を頂戴していいのだろうかと煩悶した。 その他に十五枚、自分の好きにかいていったもののなかから自宅用で取ってもらったのが二枚、その分は三千円