ひさかたぶりに浴衣を着た。 猫の世話を頼んでいったこの家の主はふだん浴衣や着物で過ごすらしい。衣紋掛にかかっていたそれを彼がはじめに身にまとい、俺にも着ろとうながすので持ち主の許諾もとらず袖を通した。むろん、てきとうに何でも使ってくれていいと言われていると彼が言ったせいだが、洋服ならばそもそも手に取らなかっただろう。 師匠のお宅にお世話になっていたころは毎年新調してもらっていた。なんとなれば羽織袴も着付けられる。言わずともそれを察した彼がさっさと兵児帯をとり、俺に角帯を手渡した。 よく似合うね、と彼が目をほそめた。 照れくさいので聞かぬふりで、上にあがるぞと声をかけた。 その一歩を踏み出そうとしたところへ、さっきまで遠巻きにしていた猫が脚に身体を摺り寄せてくる。主人を思い出したものかと少しあわれに感じたが、俺はこの黒猫の飼い主ではない。だからいたずらにその背を撫でず、一緒にくるかと問うてみ