息をのんだ私に、アンリが笑った。 「愛する女性をお守りするのが騎士でありましょう? あなたが臣従礼を誓うのは、あの麗しい女神の娘なのですから、仕方ないですよ。 お忘れではありませんよね? このエリゼ公国は女神の御子によって治められ、あなたは偉大な皇帝ユスタス陛下からその御子をお守りするよう仰せつかったヴジョー伯爵の末裔なのです。 あなたは、この国を守護するものです。この先どんなことがあろうと、その役目をおりてはなりません」 アンリは私がしかと頷いたのをたしかめ、いつもの調子で続けた。 「とは申しましても、エリス姫救出は、動きようによっては公爵家への叛逆罪を問われますし、悪くすればオルフェ殿下を弑逆せねばならなくなりますが、よろしいですね?」 「そうならぬよう働いてこそ円卓の騎士の末裔たるヴジョー伯爵であると、言っておく」 「よいお覚悟です」 アンリの、滅多に見せない晴れやかな笑顔に騙された
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