「アンリエット! アンリエット、いないのか?」 オルフェ七世が青銅製の隠し扉を押し開けて目にしたのは、名前をよんだ当人ではなく、華奢な少年の姿だった。少年が闖入者に声をあげなかったのは驚愕のせいに違いなく、片手で覆えるほどの小さな顔は紙のように白くなっていた。 「し、失礼! まさか他にひとがいると思わなかったもので……」 謝罪を口にしながら、当然のことオルフェは気がついた。もしや、いま彼が目の前にしている人物は、あの神秘の王国「鳥首国」から派遣された弱冠十三歳の「大使」ではないのかと。そして、少年のほうも同じく察した。自分の前にあらわれた人間こそ、次期葬祭長「オルフェ七世」であると。 公の人間であるとみなされる人物同士、非公式の会見であればあるほど相応の政治的配慮が必要とされる。ましてや、こうした不慮の事故の場合はなおさらだ。 さて、オルフェ七世としては秘密の隠し扉の件さえ伏せておくことが
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